サナアの我が家（２０００年６月＜２＞）

ここでの住居は前任者の方のものをそのまま引き継ぎました。だから、イエメンに到着した翌日から家があったわけです。これにはとても助かりましたが、段々と暮らす内に、｢これがちょっと・・・｣というようなものが出てきて、最初の１ヶ月は｢自分の城作り｣に奔走しました。

そもそも、私たちはサナア市内の高級住宅街に当たるハッダ地区にあるハッダ・コンパウンドに住んでいます。ここは１４年ほど前に建設され、広い敷地内に４階建てのマンションが並んでいます。単身者用の小さめのＡ棟と家族用のＢ棟があります。また、敷地内には屋外のテニスコートやプールもあり、大きな木もそこかしこに植えられているので、緑の少ない街中に比べるとオアシスのようでほっとします。そんな訳で、ここは古いにもかかわらず、外国人には人気の場所です。サナアの一軒家は屋上に水タンクを有し、定期的に水を買う必要があるのですが、ここはその必要がありませんし、街が停電になっても、ここの発電機が発動し、１０分後には回復するので、そういったメンテナンス部分の苦労から開放されることも、人気の理由のひとつでしょう。

ここの邦人のほとんどは一軒家に住んでいます。来たばかりの頃は他人の家の見学に出かけてました。外国人用に貸し出される家は大きいものが多く、一生の内に一度はこんな家に、と思わないでもないのですが、よーく考えると、部屋数ばかりで使い勝手が良くなさそうで、何より掃除が大変ですし、部屋に括り付けの収納スペースがほとんどなく、いろいろな家具を揃えるのも大変そうで、｢やっぱり今のコンパウンドでいいね｣という結論になりました。それまでは、来たばかりで様子の分からない１年間は外国人も多いコンパウンドで暮らし、慣れたら一軒家に引っ越す算段でいたのです。

外国人が多く暮らすハッダ・コンパウンド。
こういった棟が敷地内にいくつか建っています。

という次第で、３年近くは暮らすであろうこの部屋に多少お金をかけても良かろうと、城作りに取り掛かりました。

まず大家に頼んだことが、ガスレンジの入れ替え、新しい冷凍庫の購入、大きいダイニングテーブルの購入、玄関先に大きな姿見の設置でした。

それから、前任者から引き継いだ３組のソファセットを下取りに出して、新しいソファを１組を自分たちで購入しました。このソファがいわゆる｢ソファ｣ではなく、イエメン独特の床に直置きのソファなんです。足がないソファを想像して下さい。イエメンの家には｢マフラージ｣と呼ばれる宴会用の部屋があり、そのマフラージには必ずコの字型にこの直置きソファが並べられています。床上生活に慣れている我々日本人にとってはとても親しみの持てる物で、特に床にごろんと寝るのが好きな夫はとても気に入り、｢絶対我が家にも！｣と相成ったのでした（この床置きソファの写真はこちらです）。

他にはマフラージのソファを揃えたら、それまでのコーヒーテーブルの背が高すぎるので、大きな卓袱台のようなテーブルを注文しました。ここは夜９時過ぎまでお店が開いているので、夕食の後に街をドライブしながら、めぼしい家具屋さんを１軒１軒訪ね、気に入ったお店で絵を描いたりして注文しました。皆、最低限の英語はできるので、下取りに出すこととか全部自分たちで交渉できました。ウズベキスタンではなかなか考えられないことです。

残念なのが、私たちは３階に住んでいるため、庭がないということです。１階の住人は箱庭のようなものを持っていて、いろいろと楽しんでいるようです。私たちはここでウズベキスタン滞在時のように畑を持つことは叶いませんが、ベランダで三つ葉としその栽培に挑戦中です。それすらも、ここは乾燥が激しいので、植物はうまく育たないという話を聞き、夫が段ボール箱に細工して、ラップの窓付きの囲いを作ってくれました。さすが！

とまあ、着任してから１ヵ月後の５月の終わりには、ようやく｢自分の城｣という気持ちを持てるように仕上がりました。ここにはあまり女性が出歩けるような場所がないので、家がとても大切になります。いろいろ付き合わされた夫にはお気の毒でしたが、その甲斐あって、というところです。ですから、どうぞ皆さんいらして下さいね！