９．１１後のサナア　その２（２００１年１０月＜２＞）

サナアの状況について少し詳しく報告します。
ここサナアで、私にリンさんというアメリカ人女性のお友達がいました。

彼女の旦那様はアメリカ大使館付きの陸軍の軍人です。９月１１日の事件後、ここサナアでもアメリカ、カナダ、イギリスといった国の家族は次々と母国へ退避を始めました。以前私たちが住んでいたコンパウンドの住人は上記の国の人が殆どでしたから、敷地内の公園など閑散としているそうです。

普通はこの戦争が終わり、ある程度落ち着いたら戻って来ることができますが、リンさん一家の場合は、子供の教育の問題もあり、今回アメリカに戻ったら、次の任地が決まるまでアメリカに滞在し続けることになっていました。

６月にも詳しい内容は分かりませんが、アラブ諸国のアメリカ大使館に対するテロ予告があったようで、３ヶ月ほどアメリカに避難していました。彼女には中学生を筆頭に３人の子供がいるので、数カ月おきの転校は子供にとって良くないとの判断です。かといって旦那様の職務上ご主人はイエメンを離れることはできず、リンさんのイエメン出国は１年から１年半の間家族がばらばらになることを意味するのです。

そんな理由からリンさんは最後まで出国したくないと大使館等と交渉していたようですが、ある日突然翌日に出国しなければならないことになりました。一応いずれは出国することになるだろうという覚悟は私もリンさんも持っていて、我が家でリンさん一家とのお別れパーティーを計画していました。ところが、よりによってそのパーティーを予定していた日の朝にイエメンを発つことになりました。

リンさんは朝の７時に泣きながら電話をしてきて、私は空港までお見送りに行きました。あまりに急な話の展開で、私の旦那様は｢これだけ急だってことは、アメリカの行動の日は近いんじゃないの｣と予言しました。そしたら本当に翌日にアメリカのアフガニスタンに対する空爆が始まりました。皮肉なことに私たちはＮＨＫよりも精度の高い｢情報＝リンさん一家の行動｣を持っていたことになります。しかし、こんな形でアメリカの攻撃を知ることができたとしてもちっとも嬉しくありません。そしていつかはお別れする日が来るとは分かっていたものの、こんなにも突然で理不尽な形でのお別れはとてもやるせないもので、２日間何もする気が起きませんでした。

その後、我が家の近くで中国人男性が誘拐されるという事件が起こりました。人質となった男性は約３週間後に無事解放されましたし、事件そのものは今回の戦争とはなんら関係のないことが分かったのですが、初めてアジア人が誘拐されたということで、日本人の私たちにとって誘拐が他人事でなくなりました。今回は誘拐する白人が減っていたため、しょうがなくアジア人になったのでは？、なんていう憶測まで生まれました。だとしたら、これもひとつの戦争の影響になるでしょう。

空爆も１０月２７日現在３週目を迎えましたが、ここのアメリカ大使館の車が外交ナンバーを取り外し、一般のナンバーに付け替え始めたというニュースを聞きました。アメリカ人に対して投石などがあったとはまだ聞いていませんが、やはり不穏な空気は流れているのでしょうね。

そんなこんなで、大きい事件は起こっていないのですが、耳に入ってきたり、体験することは、小さいながらも明るくないことばかりで、少々気が滅入っているのも事実です。それでもこうして無事に難民生活を送る必要がなく過ごせるのですから、本当に幸運でしょう。

私たちが以前住んでいたタシケントでは邦人の避難が始まりました。ウズベキスタンがアメリカに協力するならば報復を行うという声明が以前からタリバンより発せられていたからです。一体いつになったら戻ることができるのか、また戻ったとしてもテロの潜在的可能性と共に暮らすことは非常に閉塞感を感じ、ストレスの溜まるものですから、とてもお気の毒に思います。これ以上状況がひどくならないよう祈りつつ・・・。