専業主婦としての毎日（２０００年１１月）

日本にいる友人から｢毎日家にいて退屈しない？｣という質問を最近よく受け、専業主婦としての自分の在り方についてしばし思いを馳せてみました。

簡単に申し上げますと、｢専業主婦｣はかつて私が仕事をしていた時から憧れだったので、結婚してから専業主婦になることには何ら疑問を感じませんでしたし、退屈することはあまりありません。勿論｢全く退屈しない｣と言うと嘘になりますが、結構ぐうたらも好きですし、その場その時で何かできることを考える性質なので、なんとか暇を持て余さずに乗り切っています。

そして、私には夫の存在が何よりも大きいと思います。専業主婦である人の大きな悩みの一つに、｢夫が忙しいと、自分一人で退屈、つまらない、寂しく感じる｣といったことがあると思います （子供がいない場合は特に）。実際私も年末年始にはその怒りを爆発させたのですが。が、我が夫はどんなに忙しくても、どんなに肉体的･精神的に疲れていても、常に私と向き合ってくれるので、その安心感が私を支えてくれています。

更に、かつてウズベキスタン便りに書きましたが、夫は私に専業主婦の仕事の対価として月給と週に１日の定休日を与えてくれます。つまり彼は妻としての仕事を当然のものとみなすのではなく、それに対して｢お疲れ様｣といった感謝の気持ちを持ってくれているわけです。そうなると、例えばお客様の時なんかは、夫が他人様に対して少しは見栄を張れるようにと、私もお料理を張り切って凝ったものにしたり、そして反対に、私が理由もなくお弁当をサボったりすると、｢納得いかないな｣と怖―い顔で言われ、私は緊張感を持って主婦業に勤しめる次第です。

ここでの純粋な私の主婦としての仕事は、お掃除をしてくれるお手伝いさんがいるので、買物、料理、洗濯、アイロン掛けぐらいとなります。その中で一番力を入れているものはお料理でしょうか。普段の料理に気合を入れているとは言い難いのですが、前述の通り、お客様の時には一日仕事となります。使う食器も漆器を始めそれなりにお金を掛けさせてもらったので、お料理も負けないようにしなくてはなりません。

こういった６〜８人のお客様を招待しての夕食会が平均して月に１.５回程度あります。その他にも昼間に女性だけの集まりが月に２〜３回。これはまあ簡単にお菓子を２種類ほど用意するだけですけど、朝から働いていると夕食の支度に対する気力が失われることも度々で、夫は皆が持ち寄ったおいしいお菓子も食べられず、夕食も御粗末なものになるという２重の被害に遭っています。

そして今年の１月より家の中のこと以外にいわゆる｢課外活動｣も始めました。既に１１月からドイツ語の個人レッスンを受けていて、このイエメン便りのドイツ語版を作成していますが、その他にアラビア語のレッスンも再開しました。もう一人の日本人女性と一緒にイエメン人女性からレッスンを受けています。そのイエメン人女性は小学校の先生をしていて、私たちもイエメン人の生徒が使っている教科書で文字から習っています。今回はアラビア語をバリバリ勉強するよりは、先生を通して素のイエメン人を知りたいということが私たちの希望なので勉強はゆったりと進んでいます。

そしてこれらの言語の他に英語も始めました。あるパーティーで日本語を上手に話すアメリカ人女性と知り合いました。彼女は６年間日本にいて、既に日本語検定１級を持っています。それでもしばらく日本を離れているので日本語を忘れ始め、私が彼女に日本語を、彼女が私に英語を教えるという交換授業を始めたのでした。私は英語を母国語とする人に教えてもらうのは初めてで、ヒアリング（聞くこと）の上達を目指して習っています。

先日彼女の家で｢殺人犯人当てゲーム｣をするということで夫共々招待されたのですが、これが外国人の我々にとってはエネルギー消耗の夕べでした。前もって貰う招待状には登場人物のプロフィールが書かれ、更にどの人物を自分が演じるかも割り当てられています。当日はそのプロフィールに沿った格好をして出掛けます。私は上品な映画評論家で、ダイヤのブレスレットを身に付けなくてはなりません。夫はイタリア人のマフィアの役で、ピストル２丁を腰に付けます。このピストルはおもちゃ屋さんで水鉄砲を買いました。そして皆が集まるとそれぞれ台本を渡されて、ラウンド毎に話さなくてはならないことなどが指示されています。これが１０ラウンドまで続き、最後に皆で犯人を推理するというゲームです。

私は辞書持参で出掛けました。私たちは自分たちの台本を読み、役割を演じることに精一杯で、他の人のようにアドリブを演じることなんてとてもできません。で、たまにそのアドリブを私たちに振られると、台本にないものですから、“I beg your pardon? （え、何ですって？）”の連発でした。あとで｢２人ともすごく良かったわ｣とねぎらいの言葉を掛けられましたが、それがお世辞であることは明白なのでした。

話がそれました。閑話休題。
とまあ、現在３つの言葉を勉強中です。それ以外に、ホダさんの子供たちに漢字を週に１回教えています。最初は上のお兄ちゃん２人にという話だったのですが、下の２人も仲間に加わりたいらしく、ひらがなの勉強を始めました。一番下のオマルはダウン症なので勉強には加わりませんが、お兄ちゃんたちの真剣な様子を見てミニカーなどで一人遊びを静かにするのです。感心感心。

みんなで漢字の勉強中。

他には毎週水曜日に｢刺繍の会｣と称して誰かの家に集まっています。たまにただのおしゃべりの会になることもありますが、それぞれが作品を持ち寄って作業をします。クロスステッチをする人もいれば、私は普通の刺繍でクッションを作成中です。刺繍などという作業は中学以来で、本を見つつ不器用ながらも刺しています。

とまあ、こんな具合で１月に入ってから１週間のスケジュールが急に一杯になりました。語学の授業には予･復習が必要ですから、それもなかなか大変です。加えて月の中頃からこのイエメン便りの執筆に取り掛かります。最近は年を取ったせいかたまにエネルギー切れとなり、何もない日は朝のお買物から帰るとばたんきゅーとお昼寝をすることもあります。昔はこれ以上にハードに働いていたはずなのに・・・。

以上のように私のここでの専業主婦活動は随分と恵まれています。ずらずらと書きながら、自分で｢なんと甘やかされた主婦だろう｣と皮肉な意味で感心してしまいました。仕事仕事でほとんど家庭を顧みなかった父を夫に持ち、子供が２人いたので課外活動もままならなかった母からすると、今の私は随分と優雅に思えるはずです。

私たちの結婚生活も３年目に入りましたが、夕食の支度等少し気を抜いていたことも反省し、これを機会に初心を思い出しました。良くも悪くも恵まれている今の状況を有難く認識し、折角の時間を無駄にしないように過ごしたく、また以前にも少し書きましたが、できれば自分のためにだけでなく、イエメンの人たちにも何かできればなあと考えつつ過ごしています。――と、ここで必ず｢じゃあ、果たして私にどんな能力があるのか？｣という問いが生じてくるんですね。これからの私の課題です。