イエメン地方旅行　その２　「イッブ」（２００１年８月＜２＞）

アデンを訪れた後、ある週末を利用してイッブという街にも出掛けました。これはサナアのおよそ１５０キロ南に位置する街です。街自体に何か見所があるのではなく、途中の山道に、緑に覆われた段々畑があるということで一見の価値があるそうです。もうすぐ雨期も終わりという時期に慌てて、門番さんのアブドゥラを連れて出掛けました。仮に我々が誘拐されたとしても、彼だけは解放されるでしょうから、彼に日本大使館に通報してもらうのです。結局は杞憂に終わりましたが。それにしても、殆ど英語のできないアブドゥラとあまりアラビア語のできない我々との組み合わせでは、さぞかし彼にとっては退屈な１日だったことと思います。

サナアからイッブまでは約３時間の道のりです。１時間半も走ると、雨の多い地域に入り、格段に緑が増えます。イエメンでは｢カート｣と呼ばれるアカネ科の木、正確にはその葉っぱが大変重宝されるのですが、あたり一面にカート畑が広がるようになります(カートについてはこちら)。ところによってはコーヒーの木も植えられているようですが、車からではよく判りません。

一瞬｢これはライン河畔の古城跡かな？｣と思わせる風景ですが、
カート畑の見張り小屋です。

イッブ近郊では、単なる茂みではなく、いわゆる街路樹に相当するような大きな木も道路脇に生えています。子供じゃないけど、私は｢きれい、きれい！｣を連発していました。イエメンはかつて(ひょっとしたら現在も？)｢幸福のアラビア｣と呼ばれていました。この砂漠地帯のアラビア半島の中では緑の多い地域だったからです。サナアにいる限りでは、｢何が『幸福のアラビアじゃい』｣って感じでしたが、ようやく合点がいきました。日本のように濃い緑ではなく、若草色なのですが、それでも殺伐とした山に囲まれているサナアに比べれば、天国のようでした。イエメン人で老後はイッブ近郊で暮らしたいと言っていた人がいましたが、とてもよく気持ちが分かります。

そして、緑だけでなく、とうもろこしがとてもおいしかったのです。夫はとうもろこしが大好きで、路上に炭焼きとうもろこしが売られていると殆ど買うほどですが、サナアのとうもろこしはお世辞にもおいしいとは言えない代物なのですね。やたらと硬く、甘みも全然ありません。日本のものが品種改良でおいしくなっているのだからと、諦めていましたが、なんとイッブのとうもろこしはとても柔らかく、甘みもあります。で、その時点で気付くべきだったのですが、当然他の野菜もおいしいことで有名なのだそうで、トマトやジャガイモを買っておけば良かったと後で後悔しました。

緑の美しい段々畑

こういった旅行で一番困ることはトイレです。但し女性に限られますが。ウズベキスタンでも同じ問題にいつも直面し、夫はいつでもどこでもに対し、私は計画的に用を足しておかなくてはなりません。が、計画を立てておいても、トイレがない事態にもしばしば遭遇します。そういった場合はしょうがないので、大きな岩の陰だとか、小さな起伏の陰だとかを探すことになります。これは全くの私見ですけれども、ウズベキスタンでは誰かに見付かっても何となく平気でいられましたが、しかしここでは、女性は顔すら隠す場所ですので、お尻なんてのはもってのほかで、場所を探す時には念をたっぷり入れますし、用を足している時も妙にはらはらどきどきします。

・・・と書きながら思い出しましたが、ここサナアでは男性は平気で道端で大も小も用を足します。そして小の時も座っています。意外にその辺りの羞恥心は少ないようで、はいている腰巻をぺろっとめくり、おもむろに｢しゃー｣と始めます。この｢しゃー｣ですが、赤の他人が近くにいても本当に気にせず始めるらしく、とある思春期の日本人の女の子の脇で始めたこともあり、彼女が｢音を聞いちゃった！｣と驚いて私に報告してくれたこともありました。

大きい方は、前述のカートのせいで緑色に染まっているそうです。私は普段車で移動していますので見たことありませんが、夫は歩いて勤務先に通っていたこともあり、あちこちで遭遇したそうです。｢まだ乾いてる時はいいんだよ。問題は雨が降った時で、この泥水の成分があれかと思うと・・・｣とよく言っていました。日本大使館付きの医務官のお話でも、食べ物に気を付けていても、空気中からギョウ虫の卵を摂取しているとありましたが、このう○ちの話を聞いてからは、さもありなんと納得するのでした。

いつの間にか再び話がそれました。イッブへの旅行はなんと言っても緑が素晴らしく、ある日本人の方は｢イエメンのスイス｣と形容していました(個人的には？って感じだけど)。写真をご覧になって判断して下さい。百聞は一見にしかず。