イエメン地方旅行　その１　「アデン」（２００１年８月＜１＞）

引越しとその後の一連の騒ぎも落ち着き、夫が私を地方へ連れて行ってくれるようになりました。彼は既に仕事であちこちに出掛けています。その出張から戻ってくると、あれこれ話してくれるのですが、いかんせん私はサナアしか知らないので、やはり想像には限度がありました。

最初に、８月２２・２３日にアデンへ行ってきました。アデンはイエメンが北と南に分かれていた時の、南イエメンの首都でした。１８００年代から港町として栄え、当時はリバプール（イギリス）、ニューヨークに次いで世界で３番目に大きい港だったそうです（随分古い時代の話ですが）。海運の要所という地理的に重要な場所だったので、イギリスの統治を受け、その後ソ連の支配下に入りました。

とまあ、海外に開けていた場所だけあって、山奥のサナアとは雰囲気が全く異なる都市で、私はひどく驚きました。というか、アデンが結構普通の街で、つまり我々と同じような格好をした人々が歩き、街中の建物もまあ普通のビルが建っているので、サナアがかなり特殊な街だとつくづく感じてしまったのです。

それでもアデンにはやはりアデンの特徴があります。アデンの街にはソ連時代のアパート群が残っていて、−どうして旧ソ連の建物はああも同じものなのか−、一瞬私はタシケントに戻ってきたのかと錯覚を起こす通りもありました。それに中心部から離れた漁村に行くと、バラックよりもお粗末な小屋が並び、またイギリス時代の建物もわずかながら残っていますが、ソ連時代の建物と同様、壊れるがままに放置されていて、サナア、つまり旧北イエメン中心となっている現在のイエメン政治の歪みが見れるようでした。

それから、なんといっても海に開けている地形が、サナアにはない開放感をこの街にもたらしています。海の近くで生まれ育った私たち夫婦にとっては、海のないサナアやタシケントでの生活は知らず知らずの内にちょっとしたストレスになっているようで、たまに青い海を見ようものなら、直ちに｢わあーい｣と大声で叫んでしまう始末です。

ところが、逆にその海のせいで湿度も異常に高く、不快指数の高いこと。ドバイに行っても思うことですが、サナアは天気に関してだけはパラダイスです。で、アデンでは暑いんだし、海もあるのだから泳げばいいのですが、やはりそこはイスラムの国。イエメン女性の水着姿はあるはずもなく、外国人女性は別に水着で泳いでも構わないのですが、低い柵で仕切ってあるだけのプライベートビーチの向こう側にはイエメンのお兄ちゃんたちがずらっと並んで見物しています。私がスカートの裾を持ち上げて海に入って行っただけで、｢ひゅーひゅー｣と口笛を吹かれるのですから、とても水着姿になる気にはなれませんでした。

仕方がなくタンクトップ姿で浜辺のパラソルの下で昼寝をしましたが、ふと目を開けたら巨大な黒いくらげの姿が目に飛び込んできました。よーく見てみたら、それは黒のアバヤ
（コート）とヒジャーブ（頭と顔を隠すスカーフ）姿の女性たちが海に入っているのでした。要するに服を着たまま全身ずぶ濡れで浮き輪を使って海にぷかぷか浮いているのです。全身を覆っていても身体の線がくっきりでは、みっともないとされる世界ですから、果たして海からどのように上がってくるか私はとても興味津々だったのですが、待てども上がってきません。結局私の方が先に再び寝入ってしまい、結果は分からずじまい。残念

黒いクラゲのようなものが実は女性です。

南北統一後、北のサナアに首都が置かれ、アデンの開発は取り残された感があり、全体としてサナアの街より貧しい印象を受けましたが、イエメン政府もこのイエメン第二の都市をそのまま放置しておける筈もなく、アデンをフリーポート（関税のかからない港）にしようというプロジェクトがあります。そこだけ真新しいクレーンが立ち並び立派に見えますが、まだうまく軌道に乗っていないとのこと。

もうひとつ気付くことが、サナアでよりも対岸のアフリカ出身者が多いように見受けられることです。やはり海に面しているからでしょうね。

話は少し横道にずれますが、我々日本人から見ると、イエメンもエティオピアもソマリアもスーダンもみんな一緒、つまり貧しい国にしか思えませんが、実際はそれらアフリカ諸国からイエメンに難民として海を渡って来るのですから、彼らにとってはイエメンはまだましな国なのです。そしてイエメン国内でも、彼らはイエメン人とは一線を画された扱いをあちらこちらで受けています。掃除夫のほとんどはそういったアフリカ大陸出身者です。女性はお手伝いさんとしても働きますが、フィリピン人よりは安い賃金を設定されるのが一般的です。

その他の当地における出稼ぎ労働者として、東欧諸国からの人たち、インドやパキスタン人、中国人が主だったところでしょうか。東欧出身の女性は看護婦さんが多く、フィリピン人もそこに加わります。インド・パキスタン人の男性は商売をしに来ていたり、雇われていてもマネージャークラスの人が多いように見受けられます。中国人は面白いことに道路工事関係者が専らです。山岳地帯のサナア近辺の道路工事は難所ばかりで、おまけに部族抗争に巻き込まれて命を落とす工事関係者が多く、幹線道路の脇に中国人墓地があったりします。

閑話休題。
もう一つアデンで特筆すべきことは、ここの中華レストランがとてもおいしいということです（イエメンの中では、の話）。まあこれも、料理人さんの腕が良いというよりは、海に面していて新鮮な魚介類が入手できるという地の利が理由なのかもしれませんが。アデンに行ったら、必ずこの中華レストランをお忘れなく！！